くま子の思うところ

観劇録中心。良いか悪いかではなく、私が好きかそうじゃないか。

知人を劇場に連れていくなら

せっかくグルメという番組が好き。

その土地土地に住む一般人が有名人におすすめのお店を紹介する番組。

たいていご当地グルメの美味しいお店やローカルチェーン店が紹介されるのだけど、結構な確率で焼肉屋が出てくる。和牛、地鶏の有名な県じゃなくても。

自分の出身地で考えてみる。たしかに第3候補くらいで、ステーキハウスなり焼肉屋なり洋食屋なり、地元では有名な軽いハレの席に使うやや単価高めで美味しいお店が出てくるかもしれない。どの有名人に教えるのか相手に合わせて選択している節もあるだろうし、番組が複数の一般人に聞いているだろうことからご当地グルメ被りしないよう一般人側が勝手に忖度している側面もありそう。そもそも、地元民そんなにご当地グルメ食べないだろうし。

実際、自分が一番好きなお店はここじゃないけど、色々考えた結果、県外の人にオススメしたいお店はここでした、ということなんだと思う。それはそれで行ってみたいお店ばかりで興味深い。

で、何の話がしたいかというと「舞台を見たことがない人に『今度連れて行ってよ』と言われた時、どのような作品を選択するか」について書きたい。今回も偏見100%でお送りします。

 

舞台見るの?すごいね

仕事場でも仕事外でも、演劇鑑賞が趣味だと積極的に公言はしていない。ただ何かしらのきっかけでバレたら、隠すことでもないので答えるようにしている。すると、結構な確率で上述の答えが返ってくる。

多分言った人は特に何も考えていない。言うに事欠いてというか、自分から聞いといてリアクションないのはさすがに失礼だと思って優しさから言ってくれるのだと思う。私もよくあるリアクションなので気にしない。

あるいは、これは考えすぎかもしれないけど(へー私は何が面白いのか全く分からないな。よくそんな高い金払えるな)という意味合いを含んだ「すごいね」かもしれない。ミュージカル、なぜ突然歌い出すのか理解できないと未だ頑なに主張する人達がいるがその類。こういう人に歌舞伎の隈取りはいいの?と聞くと「それはそういうもんだからいいんだよ」と返される。一緒だよ。とはいえ、こういった人達と自分の幸福を分かち合いたい、理解者を増やしたいとは特に思っていないのでこれもスルーできる。自萌他萎的なアレである。

一番厄介(と言ってしまうともう立場がフェアでなくダメだが)なのは「えーすごい!今度連れて行ってよ!」と言ってくる人達だと私は思っている。

 

不確実性の高いエンタメ

演劇は不確実性の高い、むしろ不確実性を楽しむエンターテイメントだと思う。演劇沼に棲む皆さんからすると「何を今更」だと思うが、一般の方には恐らくこの感覚がピンとこない。

スポーツ、ギャンブル、時の運に左右される。アウトドア、天気との勝負。この辺りはその沼にいない人も予期できる。

対して、映画は公開期間中にどの映画館で見ても、見る人が同じなら感じ方は一緒のはず。周囲の客に恵まれず注意力が散漫になるといった事故が発生しない限りは作品の質そのものがあまり揺るがない。良い作品は良いし、ダメな作品はダメ。

演劇に触れたことがない人は、その本質が映画よりスポーツに近いことを知らないのではないか。

今は特殊な環境下なので明日の公演が、ひょっとすると今日のマチネが無事開演するのか劇場に行ってみないと分からないが、そういう意味での不確実性は今ここで書きたい内容ではないのでちょっと脇に置いておく。

例えばアドリブ。日替わりネタ。千穐楽に向けてヒートアップもしくは悪化していく役者同士の攻防。私はその不確実性が大好きで同じ作品を見に劇場に通う。とにかくアドリブを増やせばいいと履き違えている作品もあるので、初見殺しされることも、肯定はしないが作品数見てると避けて通れない経験だと思う。

それから役者のコンディションについて。昨日の公演では問題なかった役者が今日のマチネ後半、声が枯れていた、なんてことがある。急な体調不良、ケガでのキャスト変更もコロナ前からあり得た事。良くはないけど。

そもそもその作品が面白い=自分が好きかどうかも実際見てみないと分からない。この点は映画と同じだが、決定的に違うのはチケット代だ。分からないのにお試しするにはチケット代が高い。慣れてくればキャストと制作陣である程度予測できるしその予測は大体当たるが、それでも結構な博打である。博打でいえば、最たるガチャは自席からの見え方、そして隣席、前の席、後ろの席の様子だろうか。

ざっと思いついただけでも、一回の演劇体験が満足いくものになるかどうかにこれだけの不確実な要素が関わっている。「舞台はなまもの」以前の問題もある。演劇オタクをしていくうちに本来、博打にしてはいけない要素も清濁併せ呑む感じでそういうものだと慣れてしまっている気もする。虚無に当たるのも仕方ない、事故みたいなものだと自分に言い聞かせて気を紛らわせたり。この点、掘り下げるとだんだん別の話題に脱線していくので今日は書かない。

私が言いたい事としては、演劇オタクとそうでない人で演劇の不確実性に対する許容範囲が違うという事だ。オタクは、今日ダメでも前回が良かったからまぁいいかとか、この作品は合わなかったけど明日見る作品で口直ししようとか、この前見た虚無よりマシとか思って、負った傷を見て見ぬ振りできる。

一般の方はそうはいかない。演劇鑑賞自体が一生に一回あるかないかの大イベントの可能性がある。つまり、その一回の体験がその人の演劇に対するイメージに直結する訳だ。不確実な要素がその人のスタンダードとして刷り込まれた結果、演劇は「良い」「悪い」が判断されてしまう、と私は勝手に妄想する。

この点、再現性を重視する某劇団の影響も大きいと思う。TVで特集される場合、絶対再現性の話とクオリティを維持できなくて役者が役を降ろされた話が出てくるイメージ。そのこと自体は素晴らしいと思うし、さすが伝統ある劇団と尊敬の念しかないが、一般認知度の非常に高い劇団がそういう話をすると、さも全演劇集団が毎公演判を押したような100%のクオリティで上演しているように一般の方は捉えてしまうのではないか。全然そんな事ないですよ。120%の時もあるし、50%の時もあります。

 

演劇好きになってほしいわけじゃない

で、どういうスタンスで知人を劇場に連れて行くかという話をしたい。

最初から喧嘩を売る見出しになってしまったが、この投稿が想定している「知人」はあくまで知人であって、友達ではない。例えば何かしら演劇沼にハマってくれそうな因子を持っていて、かつ自分がぜひ趣味を分かち合いたいと思う友人からチケットをとってくれと頼まれた場合、もっとちゃんと自分の好き嫌いを価値基準にした作品選びをすると思う。私の好きなものを好きだと言ってもらいたい、あわよくば一緒にハマって欲しいから。

今回想定するシチュエーションは、「舞台って見たことないんだけど一回見てみたいんだよね。今度連れて行ってよ」とプライベートの交流はほとんどないが仕事柄、仲良くしておかないとそこそこ面倒くさい先輩が話しかけてきた場合、とマニアックに限定してみる。社交辞令なのかそうでないのか分からない、ギリギリのラインといったところでしょうか。相手は本当に一回も劇場に行ったことがないか、学生時代の芸術鑑賞で見たことあるよぐらいのレベル。それこそ某劇団とか。

ここまで書いてきて若干バレていると思うが、私は選民思想が非常に強い。これは最初の推しの影響が強いと私の中では勝手に責任転嫁している。演劇を見るのはそこでしか得られない感情、思想があるからだが、それ以前に「演劇鑑賞を趣味にしている自分が好き」というアイデンティティの確認にも結びつけてしまっている。前述した、「舞台見るの?すごいね」という社交辞令にもいやいや、と答えながら実は心の中では(すごいでしょ)とリアクションしていたりする。

だから、誰かを劇場に誘う時、もちろん作品は楽しんでもらいたいけれど、それと同時に「演劇ってすごいね」と納得して帰ってもらいたい思惑がある。正直、「楽しかったけどもういいや」で終わるのが普通かなと思っているので、さて次はどの作品に誘おう、なんて建設的なことはこちらも一切考えていない。作品自体の感想より「生の舞台、大した事なかった」が一番ムカつく。演劇という文化自体の価値がその人の中で上がれば大勝利である。趣味を理解されたいではなく、相手に一瞥置かれた存在になりたい。演劇が、であり、私が。

という歪んだ考えのもとで作品を選ぶポイントを考えてみた。新しいファンを増やすという目線は一切含まれない。どのジャンルでも新規を増やさないと文化は衰退してしまうというが、新規獲得は興行側か発信力のある皆さんにお任せしたい。

 

失敗しにくい作品選び

大前提として、自分の好き嫌いは二の次である。切り離せない事ではあるので結局、面白いと思った作品に誘うとは思うが、マイベストではない。

  • TV露出の多い役者が出演している

第一にこれ。ダブルキャストだった場合、相対的にTVでよく見る役者の回を選ぶ。家族なり友人なり、オタク以外に観劇した作品について話すと、「面白かった?」の前に「誰が出てたの?」と聞かれることがままあるので。最悪、作品がその人に刺さらなくても有名人をこの目で見た!という土産話ができれば一定の満足は得られるのではという私のナメた考えもある。興行側も絶対意識してキャスティングしてるだろうし。

  • 何度も上演されていて自分が過去に観劇している作品

連れて行く自分が内容を把握していないと、誘うのはさすがに躊躇する。自分が面白くないと判断したものには連れて行けない。

  • ミュージカル

第一条件に近いが、その人に刺さる歌が一曲でもあれば費用対効果感じられるのでは。仮にストーリーに納得がいかなくても、「でもあの曲よかったでしょ」「あの俳優さんの歌唱力すごいでしょ」と納得させる材料にもなる。歌が上手いだけでミュージカルが成立するわけではないが、七難は隠せる。出来れば有名なナンバーがあった方がいいけど、そうなるともう四季しかないと思う。

  • チケット代は10,000円以上

社交辞令で「行きたい」と言われた場合、このポイントで思ったより高いと断られる可能性があるが私はそれで構わない。むしろご遠慮いただけてラッキー。お金の話を何度もしてしまうのでみみっちいのがバレていると思うが、私も富豪ではないので昨今チケット代が右肩上がりなことに困ってはいる。もっとリーズナブルになれば有難いが、早々に解決する問題ではない事と、相手にある程度の金額を負担してもらう事で当日元を取りたい、元を取るためにしっかり集中して見ようという気持ちを呼び起こさせるための金額設定。

  • 休憩込み2時間半〜3時間

お手洗いと集中力の問題。舟を漕がない限りは寝られるのもやむを得まいと思ってしまうが、話しかけられるのは大問題。

  • 原作あればなおよし

映画でもマンガでも小説でもなんでもいいけど、相手が知っている作品だと事前説明の手間が省ける。本当に観劇を楽しみにしてくれた場合、予習してきてくれたりするかも。ただし、原作とストーリーが違う場合は事前に伝えていないと、これはこれで再現性がないとみなされて揉める可能性がある。

  • 出来ればコメディ、出来ればハッピーエンド

これは完全に私の趣味が入ってしまっている。連れて行った相手の嗜好に合わせるのが一番だけど、それが分からなかったら明るく終わるのが無難じゃないかな。グランドミュージカルは悲劇が多いから悩ましいところ。余談だが、一般の方はカーテンコールがあんなに何回もあると思っていない。この点も事前に伝えておいた方が絶対ストレスが少なくて済む。

 

歓迎はしますが勧誘はしない

色々書いたが、結局、演劇鑑賞を楽しめるかは相手の素養と作品との相性によるところが全てだと思う。ので、こちらがいくらお膳立てしたところで結果はそれこそ不確実である。それでも、体験がより良いものになるようにこちらが配慮できることはあるので出来る努力はしたい。

せっかくグルメの話に戻るが、お店を紹介した人たちも、お店を通してご当地自慢がしたいんじゃないだろうか。こじつけて、一回の演劇体験を通して演劇という文化、演劇鑑賞という行為を肯定してもらいたいという私の考えも不自然ではない、と思いたい。

普通に好きな作品をダイマするのとはちょっと違った観点で作品を見てみるのも面白いかなと1人で考えての投稿でした。

私がこの観点で作品を選ぶなら、シスターアクトですかね。